
新文芸坐で開催中の『「にんじんくらぶ」三大女優の軌跡 久我美子 有馬稲子 岸恵子』で有馬稲子さんの2作品「わが愛」「愛の鼓」とトークショーを鑑賞。


「わが愛」は五所平之助監督の作品で、井上靖「通夜の客」が原作で、有馬稲子自身が映画化を希望した作品だけあって、自身お気に入りの作品らしい。
作品は五所平之助監督らしく、叙情性に富んだ上質なメロドラマに仕上がっているのだが、有馬稲子の美しさの前に、相手役である佐分利信演じる役柄の個性と存在感がボケてしまいがちで人間讃歌というところまで行ききれずに終わってしまうのが、ちと残念。とにもかくにも、有馬稲子の美しさと素晴らしさ満点の作品。
「夜の鼓」の方は近松門左衛門の原作「堀川波の鼓」の映画化作品で、監督は今井正、脚本は橋本忍、新藤兼人。この「夜の鼓」は今井正の初時代劇作品で、有馬さんも表現していたが、いわゆる"くそリアリズム"時代劇。
この作品は参勤交代で主人(三國連太郎)の留守中に過ちを犯した武家の妻(有馬稲子)の悲劇を冷徹に描いた作品で過ちを犯す相手役に森雅之(出た!)、その他に金子信雄、東野英二郎、雪代敬子、等々豪華キャスト。
有馬さんはこの作品でさんざん今井監督にシゴかれたそうで御本人の弁によると「今井監督が私(有馬)の演技に納得がいかず、ある時、共演の連ちゃん(三國)を介して私の演技について言ってきたのよ」と半分冗談めかして言っておられたのだが、トークショー進行役の藤井秀男氏によると、「この脚本は最初、橋本忍氏が書いたが氏が「女性は書けない」と新藤兼人氏にバトンタッチされ、それから依田義賢氏、最後は今井監督と三國連太郎氏が書いていたと今井監督自身が言っておられましたから、それでじゃないですかねぇ...」と話し、有馬さんは「ええ?そうだったのぉ〜?へぇ〜」と納得されたご様子。拝聴していた私も依田義賢氏が噛んでいたとか今井&三國両氏が脚本を書いていたなんてこぼれ話まで聴けて嬉しい限り。
作品自体も武家の嫁とそれを取り巻く環境がいかに抑圧された中で落ち度の無い様に息を殺して日々生活をしていたかという緊張感が上手く描かれている(登場人物達があまりに受け身なのでイライラさせられる場面が多々あるのだが...)御家の面目が大事な武士の家では往々にして面倒事に対してはそういう(受動的)ものなのだろうと納得させられるだけの巧みな演出、三国連太郎、森雅之も大芝居する事なく抑制の利いた演技が良いし、抑えれば抑えるほど立ち上ってくる有馬稲子の色香と演技が本当に素晴らしかった。

最後にトークショーでの有馬稲子さん。テレビのトーク番組やインタビュー等でも伺い知る以上に実物の彼女はパキパキというかチャキチャキとした印象の女性だった。